支援の現場では、ふとした瞬間に
「今の対応、ちょっとまずかったかな」
と感じることがあります。
対象者の問題行動に巻き込まれたり、予想外の反応が返ってきたりするたびに、支援者自身の心も揺れます。
怒り、不安、無力感
こうした感情は、支援者が弱いから生まれるものではありません。
むしろ、丁寧に向き合おうとする人ほど揺れやすい自然な反応です。
この記事では、支援関係がつらくなるときに起きている“心のモード”の変化を、メンタライゼーションの視点から整理していきます。
メンタライゼーションとは何か──“見えない心”を思い描く力
メンタライゼーションとは、簡単に言えば
「相手の心」と「自分の心」の両方を想像しながら行動を理解する力。
もう少しやわらかく言うと、
- あの行動の裏には、どんな気持ちがあったんだろう
- 今、自分(または相手)の中で何が起きてる?
- どんな受け取り方をしている?
こうした“心の動き”にライトを当てる視点。
支援の現場では、“行動を見る視点(行動分析)”と、“心を見る視点(メンタライゼーション)”の両方が必要ですが、忙しさや負荷が重なると、後者が落ちやすくなります。
メンタライゼーションは、その“心の余白”を取り戻すための技法とも言えます。
支援がつらくなるのは、あなたが弱いからではない
支援者は「うまく関わりたい」「理解したい」という気持ちが強いほど、自分の心を後回しにしがちです。
問題行動が起きたとき、
- 言葉が届かない焦り
- 周囲の視線
- 対象者の反応が読めない怖さ
- チーム全体のピリついた空気
こうした負荷が重なると、心に余白がなくなっていきます。
怒りや戸惑いは、支援者が“まじめに向き合っている証拠”です。
支援者が“巻き込まれる瞬間”、心の中で起きていること
問題行動が起きたとき、心は一時的に「関係の背景まで考える余裕」を失います。
メンタライゼーション研究では、追い詰められたときに生まれやすい3つの“心のモード”が整理されています。
ここから、その3つを支援者向けにわかりやすく紹介していきます。
心が追い込まれたときに現れやすい3つのモード
① 心的等価モード
“感じたこと=事実”に見える状態。
【例】
- 相手が強い口調で話す → 「本気で怒られている」と受け取ってしまう
- 暴言を吐かれる→ 「嫌われた」と感じてしまう
実際には、不安や混乱の表れであることも多いのに、“自分への攻撃”として胸に刺さる。
② 目的論的モード
“見える行動だけ”で心の意図を決めつける状態。
【例】
- 謝らない → 「反省してない」
- 何度言っても動かない → 「わざとやっている」
- 他の子の邪魔をする → 「乱したいだけ」
本当は「恥ずかしい」「どう謝ればいいか分からない」だけかもしれないのに、行動を“直接的な意思表示”として受け取りやすくなる。
③ ふりをするモード
表面上は冷静でも、心が離れてしまう状態。
【例】
- 「この子には理解が必要」と頭では分かっている
→ でも 気持ちがついていかず、声が固くなる - 穏やかに話しているように見える
→ 実は 内心はイライラが残ったまま
疲労の蓄積などが重なると、このモードに入りやすい。
なぜ支援者は、このモードに入りやすいのか
- 日々の疲労や緊張
- 相手が考えていることの“読めなさ”による不安
- 「失敗できない」という圧
- 過去のつらい体験がよみがえること
- 周囲の目線やチームの文化
特に、
うまくいくと思った流れが崩れたとき、支援者の心は大きく揺れます。
「今日は落ち着いてると思ったのに…」
「さっきまでいけてたのに…」
こうした“期待の崩れ”がモード変化を起こしやすい。
この状態が続くと、支援関係はどう歪むのか
モードが崩れたまま支援すると、関係は少しずつ歪みます。
- 声が強くなる
- 指示・説得が中心になる
- 子どもの“行動”だけに目が向く
- ルール遵守に固くなる
- 身体的制止が増える
- 支援者自身が疲れきる
これは“虐待的対応の入り口”ですが、支援者の性格や資質だけの問題ではありません。
問題は、負荷が強すぎたことにあります。
支援者を守る“メンタライゼーション”の実践

メンタライゼーションは、単なる技術ではなく「気づき直す姿勢」 に近い。
ここでは現場で使える3つの視点を紹介します。
① 自分の感情に名前をつける
- 怒っている
- 怖い
- 焦っている
- 無力感がある
これだけでも、“心的等価モード”の暴走が止まりやすくなります。
② 相手の“見えない心”をそっと翻訳する
行動の裏にある背景を、断定ではなく“仮説”として置く。
- 恥ずかしくて謝れない
- 不安が強くて動けない
- どう助けを求めればいいか分からない
- 自分を守るために強く出てしまう
仮説の姿勢は、“目的論的モード”をやわらげてくれます。
③ チームで言語化する文化をつくる
- 「あの場面、正直怖かった…」
- 「強く言いすぎた気がする」
- 「無力感が大きかった」
感情を持ち寄れるチームは、各支援者の心を守る機能を持ちます。
関わりが息苦しいときの“小さな整え方”
- 一度、関わりの手をゆるめる
- すぐ評価しない
- 深呼吸をする
- 別の支援者にバトンタッチ
- 相手のペースに合わせてみる
“今は心が働きにくいな”と気づくことが最大の予防。
まとめ──強い対応を防ぐのは、専門知識より“心の余白”
支援者の怒りや不安、無力感は、弱さではなく誠実さの証。
支援がつらくなる背景には、あなたの“心のモード”が揺れているだけ。
メンタライゼーションは、その揺れに静かな余白を取り戻すための視点です。
心が整えば、
支援関係も、相手の反応も、
ゆっくり変わり始めます。

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