──「もう、変わらないんじゃないか」と思う瞬間────
「何度言っても同じことの繰り返しだ」
そう感じたことはありませんか。
家族に、利用者に、あるいは自分自身に──
変わってほしい、変わりたいと願っても、結局、元に戻ってしまう。
「人は変わらない」と思うとき、そこにはどうしようもない無力感が残ります。
けれど、心理学の視点から見れば、“変わらない”ように見える行動にもちゃんとした理由があります。
「変わらない」には理由がある
人の行動は、単純な意思や根性で動くわけではありません。
そこには“心理的なメカニズム”が働いています。
たとえば、
「やめたいのにやめられない」
「分かっているのに同じことをしてしまう」
という行動の裏には、いくつかの共通した要因があります。
① 変化には「心の準備期間」がある
人が行動を変えるとき、頭で「変わらなきゃ」と思っても、心が追いつかないことがあります。
たとえば、
長年の習慣をやめる、価値観を変える、
人間関係の距離を取り直す──
こうした変化には、“心の準備期間”が必要です。
心理学では、これを「行動変容のステージ」として説明します。
(後ほど詳しく触れます)
② 「変わらない」ことにも意味がある
一見、変化を拒むように見える行動も、実は“自分を守るためのバランス”かもしれません。
変わらないことは、必ずしも怠慢や無理解ではなく、“その人なりの生き延び方”であることも多いのです。
行動変容の心理学──「ステージモデル」で見る人の変化
行動変容の研究では、人の変化をいくつかの段階で捉えます。
特に有名なのが、次のモデルです。
「トランスセオレティカル・モデル(TTM)」
「自分には関係ない」「別に困っていない」と感じている状態。
ここでは、外からの説得や助言はほとんど届きません。
少しずつ問題を自覚し始めるものの、「でも」「どうせ無理」「今はタイミングじゃない」と揺れ動く段階です。
支援者や家族が焦って動かそうとすると、かえって反発が起きることがあります。
「やってみようかな」と思える瞬間。
ここで重要なのは、“決意”よりも“見通しを立てること”です。
新しい行動を始める時期。
しかし同時に、失敗や誘惑に直面するリスクも高い時期です。
“完璧さ”よりも“小さな成功”を大切にすることが継続の鍵になります。
行動がある程度、習慣化してきた状態。
とはいえ、まだ不安定で“再発”のリスクもあります。
たとえ後戻りしても、それは「ゼロに戻った」わけではなく、経験を踏まえて次に活かすための“再評価”のタイミングです。
行動変容は“一直線の成功”ではなく、“らせん状の変化”です。
人は行きつ戻りつしながら、少しずつ前に進んでいきます。
「変えよう」とするより、「理解しよう」とする

支援や関わりの中でつい陥りがちなのは、「どうしたら変わってくれるか」を考えすぎること。
けれど、変化は“外側から押す力”ではなく、“内側で生まれる動き”によって起こります。
「変えたい」と思う気持ちが、相手を追い詰めることもある
「あなたのためを思って」
「このままではダメだ」
そう伝える言葉が、相手の防衛を強めてしまうことがあります。
変化を促すよりも、
「この人はなぜ、変わらないようにしているのか」
その背景を理解することが、本当の意味での“支援”につながります。
小さな変化を見逃さない
変化とは、劇的なものではなく、たとえば「表情が少し柔らいだ」「話を最後まで聞けた」。そんな小さな“心の動き”の積み重ねです。
支援者や家族がその変化に気づき、受け止めてくれることで、人は「自分の中で何かが動いた」と感じることができます。
まとめ:「変わらない人」への理解が、変化の始まり
- 「変わらない」には理由がある
- 行動変容には段階があり、後戻りもプロセスの一部
- 変化は押しつけではなく、理解の中から生まれる
- 小さな変化を見逃さず、信じて見守ることが支援の力になる
「人はなぜ変わらないのか」と悩む時間も、実は“人を信じる力”を育てている時間です。
そのままの相手を、少しでも理解しようとすること。
それが、変化のいちばん最初の一歩になります。

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